2014年11月4日

営業コンサルというお仕事。 【後編】

でね、言葉を失ってる場合じゃないと我に返って、勇気を出して言い返しましたよ。
「あのー、営業の仕事と伺ってたんですが…」
「ああ、営業の仕事もありますよ。そっちがいいですか?」
そっちがいいですか、じゃねーだろ! はじめからそっちだよ!
「様々なお店にソフトバンクのWi-Fiを設置して、お父さんステッカーを貼っていく営業です」
それ…営業? 作業員じゃなくて?
いや、確かにそういう営業の人もいるんだろうけど、なんか違うんだよなあ…。
それが「面白いアイデアで『あっ』と言われる企画を考えるお仕事」?

で、「こっちの方がおすすめですけどね」と話を無理矢理販売に戻され、
また大手家電量販店や大手スーパーで云々の説明が始まったんだけど、
ふと例の事業所のことを思い出したから聞いてみたのね。
「事業所が近所ということもあって応募したんですが、ということは、事業所勤務ではないんですね?」
「えーと? …ああ、あそこ? あの部屋はもうとっくに引き払いました」
ガーン! 堂々とハロワに虚偽の所在地記載! 平然と違法行為!

その中本(仮名)、オレの履歴書をしげしげと眺めてたかと思うと、
「へえ、14年もオークションやってたんですか?」と聞いてくる。
「ええ、まあ」と返すと、「そのノウハウ、当社にほしいですね」とニヤリ。
なんでも、他社との繋がりで「商材」は安価で仕入れることができる環境にはあるものの、
それをネットで売るノウハウがないから、どうしようかと思いあぐねていたところだ、と。
別にオレ、特別なノウハウなんて持ってないんだけど、話は勝手に進んでいって。
「そうだな…それではネット物販部門を作りましょう。あなたが責任者になってください」
初対面のオレがいきなり責任者に…? まだ会って5分も経ってないけど?
「とりあえず当面は営業コンサルと同時進行で進めてみてください」
同時進行って? 8時間ヤマダ電機で働いた後、6時間この部屋で作業、みたいな? 殺す気?
「うーん、これは結構なドル箱部門になるかもしれませんね。一緒に頑張りましょう」
…ジョン・レノンがイマジンで歌った「夢想家」ってこいつのこと?

オレ的にはまったくビジョンが見えないんだけど、
どうも中本には見えてるようなんだよな、勝利の方程式が。

念のため再度書いておくと、オレは履歴書を持参してこの面接に来たわけ。
中本はオレと会って、履歴書を受け取って、読んで、
そこで初めて、オレが今までオークションをやっていた、と知ったわけ。
つまり、このネット物販部門の下りは、全部その場の「思いつき」なんだよな。
この薄っぺらさがすごい。何もかもが適当なの。

でも、まあ確かにその「商材」とやらがオレの想像を超えるすごいものだったら、
中本から湧き出る自信の理由もわからなくもない。
例えば、問屋を通さずバンダイと直取引で、妖怪メダルが卸価格で大量に手に入るとか、
中国の工場からの裏ルートで、MacBookの次期バージョンの試作品を入手できるとか。

「肝心の『商材』なんですが、これは出品さえすれば確実に売れますから。
 というのも、とにかく安く仕入れることが可能なんですよ、独自のルートで。
 だから競合他社より安く出品すれば、もう一人勝ち状態ですよ。
 例えばサードパーティー製のプリンターインクとかね。
 USBメモリやMicroSDカードなんかも安く仕入れられますし、
 今どきのものだと、スマホ用の保護フィルムなんてのもありますしね」

…それ、全部1円で出品されてるよ! 不人気商材大集合!
この商材のどこにドル箱を見いだしたのか…こいつに市場調査という概念は?
ここまで書いてふと思ったんだけど、こいつの言う「独自のルート」って、
もしかして単なる家電量販店のワゴンセールでは? いや、まさか…まさかな…。

「ネット物販部門のライバルはアクセルということになりますね。知ってますよね、アクセル」
「アクセル? いえ、不勉強で申し訳ありません。初耳です」
「知らないんですか? オフィスで使われるこういった事務用品などを扱っている…」
…それ、アスクル! 逆に社会人でアスクルを知らないのはおまえだけ!
つーか、たかだかプリンターインクやUSBメモリ、保護フィルムを扱うだけで、
資本金200億の大企業をライバルだと思える、その根性だけは見上げたもんだが…。

ここで話は「営業コンサル」に戻り、求人票に書かれてた条件の確認へ。
「服装自由」に関しては、店の制服を着るから、ということらしい。
「自由っていったいなんだい?」と歌ったのは尾崎豊だったっけ…。
「土日祝(完全週休二日制)」に関しては、勤務する店による、とのこと。
ヤマダ電機やイオンが土日休みのわけねーだろ!
条件があっけなく次々と反故にされていく…。もう嫌…。

そんな中本が、最後に「営業コンサルの極意」を教えてくれた。
こうすれば勝手に商品は売れるという、本当なら販売職必見の情報だけど…。
「商品に対する知識なんて不要なんです」
むむ、斬新だ。
客に商品説明を求められたらどうするの?という疑問はさておき、斬新だ。
その奇妙な持論に含まれる真意とは?

「もし、あなたがバームクーヘンを売るとしましょう。
 そのバームクーヘン会社の社長の気持ちになれば、
 あなたが実はバームクーヘンが嫌いだとしても…そんなこと言えないですよね。
 むしろそのバームクーヘンの素晴らしさを喧伝して、
 より多くの人に食べてほしいと思うはずでしょう。
 その会社の社長の気持ちになれば、心が熱くなれば、勝手に売れるんです。
 商品の知識なんてなくても構わないんです」

………チンプンカンプン!
いや、言ってる内容の無茶苦茶さ、荒唐無稽さ、
「社長の気持ちになれば売れる」という薄っぺらさを差し引いても、
そもそも…なんだ、その例え?
「もしあなたが飲食店のオーナーで」とかならまだしも、
そこであえてバームクーヘンという、よくわからないキーワード。
これが示すただひとつの答えは…そう。
…オレ、路上でバームクーヘンを売らされる! 街で最近よく見かけるリヤカーのアレ!

もちろん帰宅後、即辞退の電話ですよ。
ま、本当は入室後2分ほどで辞退は決めてたんだけど。
「そうですか、しょうがないですね。ではネット物販部門はどうしますか?」
…やるわきゃねーだろ、バカ!