2014年5月25日

美味しんぼ騒動を受けて。

遅ればせながら、先日の美味しんぼ騒動を受けて。
とりあえず、騒動の概要まとめ。

雁屋哲さんの美味しんぼ福島鼻血炎上事件のまとめと考察

この件、ネット上では三年前に終結した議論で、
それを今さらぶり返されてもなあ、というのが第一印象。

で、今回の騒動に関しては、個人的にはこのブログが完璧な反証だと思う。
難しい話を抜きに、なおかつ科学的・論理的に面白くわかりやすく解説してくれてる。

山本弘のSF秘密基地BLOG:鼻血効果
山本弘のSF秘密基地BLOG:続・鼻血効果

つまりはすごく滑稽な主張をしてるのね。
勃起力が弱まってきたのは放射能のせいだ!みたいな。
最近ウンコの切れが悪いのは放射能のせいだ!みたいな。
じゃあオレに勤労意欲が湧かないのも放射能のせいにしちゃおう! あ、これは3.11以前からか…。

いや、バカと思われてもいいから主張したいなら自由にやればいいけど、
世間に対してアピールしたいんなら、せめて統計を出してくんない?と。
被災地周辺で本当にそうした症状が増えているのか、それは全国と比較してどうなのか。
そして実際に増えているんだとすれば、その現象を科学的に検証してどういう結果が出たのか。
そんな検証すら怠って「勃起力が弱まってきた!」って騒いでんだから、呆れるしかない。
しかも医者が「老化です」と診断しても「嘘だ!そんなわけない!」だって。トホホ。

もちろんデマの類だし、上記のブログに書いてある通り井戸川元町長もかなりヤバい人なんです。
つまり、作者・雁屋哲は現地を調査した上で「どうやら福島は危ない」と結論付けたわけじゃなく、
「福島は危ない」という、あらかじめ決めておいた刺激的な結論に導きたいがために、
井戸川元町長や松井英介所長という「変わった人」を担ぎ出したわけだ。
こんな方法が許されるなら、「放射能? 低線量ならむしろ体にいいですよ」という異端の研究者を捕まえてきて、
(放射線ホルミシス効果といって、実際に研究・肯定してる科学者も大勢いる)
「福島で健康になった」「癌患者は福島に移住すべき」って結論付けることも容易なわけで。

ごく少数の「変わった人」の意見を元にして検証も行わず、
<こう言ってる人がいる>→<だから違うと断言は出来ない>
そんな破綻した論法が許されるなら、もうなんだって書けちゃう。

ちなみに報ステもそうした手法を使って叩かれてんだけど、本当に酷い。
体調の異変を自覚する前に検査をしたなら発見数は大きくなって当たり前だし、
一生症状が出ないかもしれないのに甲状腺癌と診断された子供や家族の心的負担を考えると心が痛い。

メディアが少数の「変わった人」の意見を報じた例なら、こういうのもある。
まだ眉唾もののホルミシス効果だけど、科学的に全否定されてない分だけ報ステよりマシ。
すべてを信じる必要はないけど、不安を感じる人は読んでおくべき内容だと思う。
(チェルノブイリでの甲状腺癌による子供の死亡者数とかは全然違うけど。実際は15人だったはず)

中村仁信/放射線は怖くない、むしろ体にいい - SALUMERA - Yahoo!ブログ

だから、危険ならいい、安全ならいい、とかって話じゃなくて、
「影響力もあるんだし嘘や偏見に基づいた煽動は止めようよ」って単純な話なのね。
過剰に危険と言うのも、過剰に安全と言うのもリスクを孕んでるのよ、と。
それを鵜呑みにしちゃう人もいるし、それによって被害を受ける人も出てくるんだから。

で、驚くことに、この美味しんぼを擁護してるバカもいるんだけど、
こういうバカに限って、借りてきた他人の言葉でキャンキャン吠える。
「放射線による健康被害は『わからない』んだから、同様に鼻血に関しても『わからない』じゃないか」と。
確かに「放射線で今後どういった健康被害が起こるかは『わからない』」なんて言葉をよく耳にするけど…。

…いや、充分にわかってるから!
そういう人には、お願いだから、一冊だけでいいからまともな解説書を読んで、と願う。
原発推進寄りでも反対寄りでもない、専門家のちゃんとした解説書を読めばわかるはずなんだけど。
(読みやすくておすすめなのはここで無料公開されてるPDF書籍化もされてます

今後起こるであろう健康被害は物理学や疫学でほとんどわかってる。
それはデータ上、他の理由に埋もれてしまう「『わからない』ほど小さな被害」だって言ってんの。
そりゃそうだ、避難せず被曝しまくった1歳が未検査の食品だけを食べ続ける、ってありえない設定で0.52%なんだから。
つまり、超少ない被害の範囲内で(0~0.1%とか)、どれほどになるかが「わからない」。
そんなデータ上ではほぼ表れない、「ない」と言い切っても問題のない程度の被害を、
良識ある科学者が「『わからない』ほど小さな被害は起こりうるかもしれない」って言ってくれてんの。
過剰とも言えるほどに危険寄りに物事を考えてくれてんの。
その言葉尻を捉えて「ほら!わからないんじゃないか!」と叫ぶ醜さったら見てらんない。

例えば、豆を一気に千粒食べたら癌になる可能性が高まる、という研究結果があったとする。
で、オレが今日から毎日、豆を一日一粒ずつ食べ続けたとする。
そしてオレが80歳で癌になったとき、それは毎日豆を一粒ずつ食べたせいだったのか。
普通の人は「んなアホな」と言う。
しかし、これを科学的に言うと「100%ない、とは言えない」ということになる。
だって何十年も毎日一粒ずつ豆を食べる研究なんてやってないんだから。
ありえないとは思いつつ、検証されてないから「わからない」としか言えない。
これが科学的目線であるということ。
それを受けて「真面目か!」とツッコむならわかるけど、
「ほら!わからないんじゃないか!」って、…もうバカ丸出しでしょ。

この話、つづく。

2014年5月20日

「ー」を無視するな。

もう何年もずっと気になってること。

前回の日記の「今日の一曲」であえて「シティポップ」と書いたんだけど、
確かにこれで間違ってないわけ。Wikipediaでもそう表記されてる。
でも、これって昔は「シティー・ポップ」じゃなかった?
HONDAの小型車は「シティー」だったし、
都会派の暮らしを「シティー・ライフ」なんて呼んだし、
雑誌には「シティー派ファッション」なんて特集組まれてたよね?
でも現在、Wikipediaでは「ホンダ・シティ」になってるし、
「シティー」でググると…検索結果には「シティ」しか出てこない

もはや「シティー」がなかったことになってて、なんだか怖いんですけど!
「目覚めたら昨日と日常が変わってた」系のSF映画の主人公気分!
「妻と娘はどこだ?」「何を言ってるんですか、あなたはずっと独身ですよ」みたいな!

そういえば「アイデンティティ」もだよね。以前は「アイデンティティー」だったでしょ?
最近は「パーティ」なんて書くんだってね。いや、それ「パーティー」だから!
じゃあ問題は語尾が「y」の単語だけかと思いきや、
これはオレもよく使っちゃうけど「コンピュータ」とか。「コンピューター」だよね?
PC用語には結構多いな。「サーバ」とか「メモリ」とか「スキャナ」とか。
「ライブラリ」なんてのも本来は「ライブラリー」だよなあ。

この「表記するときは語尾を伸ばさない」って暗黙の了解が妙に気持ち悪い。
いったいいつから? 気が付いたら「シティ」になってたけど、
オレ以外のみんなが、この日からこういうルールでいこう、って決めたの?

で、ここまでの文章は「オチはないけど、違和感があるから書いた」だけだったんだけど、
念のため調べてみると、ちゃんと理由があったことに驚いた。

JISの表記規格によって、3文字以上のカタカナに長音記号を付けないというルールが決まってるんだとか。
一方、2文字以下のカタカナには長音記号を付けるんだとか。
確かに「タブー」とか「ルビー」とか「バレー」とかはそのままだもんなあ。
へぇーボタン連打。なるほどなるほど、疑問氷解。

ん? でも「ヒーロ」や「ノスタルジ」や「シドニ」なんて書かなくない?
「シーソ」? 「ストロ」? 「ガールズバ」? 「新春シャンソンショ」?
「彼女はロータでオナニを行いエクスタシに達した」? …勃たねぇわ!

ということは、まだオレの知らない別のルールがあるということか?
フランス語からの外来語は伸ばす、ポルトガル語からの外来語は伸ばさない、とか?
…いや、もうどうでもよくなってきた。
新ルールが出来る度にいちいちJISに振り回されるのもアホらしいし、
口語体の文章ではやっぱり違和感は残るし、
オレは今後もなるべく長音記号を付けていきたいです。シティー。

…そういえば「ヒットラー」はいつから「ヒトラー」になったの? 「ヒットラーの復活」の立場は?

2014年5月15日

建前と本音。

以前にふと思ったことなんだけど、建前を言えない、本音でしか生きられない人って増えてんのかなあ。
…何気なく「以前に」と書いたけど、振り返ったらちょうど一年前だった。
半年ほど前じゃなかったっけ? 月日の流れる速さにガクブル。加齢って怖い。

そんなことを思ったきっかけは、炎上騒動の元となった乙武さんの連ツイ。
当時結構派手に燃え上がったので覚えてる方も多いんじゃなかろうか。

今日は、銀座で夕食のはずだった。「TRATTORIA GANZO」というイタリアンが評判よさそうだったので、楽しみに予約しておいた。
が、到着してみると、車いすだからと入店拒否された。「車いすなら、事前に言っておくのが常識だ」「ほかのお客様の迷惑になる」――こんな経験は初めてだ。
乙武 洋匡 (@h_ototake)  2013.05.18 19:27
https://twitter.com/h_ototake/status/335703141318270976

お店はビルの2階。エレベーターはあるが、2階には止まらない仕組みだという。「それはホームページにも書いてあるんだけどね」――ぶっきらぼうに言う店主。
「ちょっと下まで降りてきて、抱えていただくことは…」「忙しいから無理」「……」「これがうちのスタイルなんでね」以上、銀座での屈辱。
乙武 洋匡さん (@h_ototake) 2013.05.18 19:34
https://twitter.com/h_ototake/status/335704926523109378

※ 現在は両方とも削除済み

このツイートに批判が集中して見事炎上。

乙武さんを銀座のレストランが入店拒否した問題 ネット上の反応 - NAVER まとめ

そして乙武さんがブログで陳謝して一応は鎮火。

イタリアン入店拒否について | 乙武洋匡オフィシャルサイト

この件に関するツイートやはてブコメント、ブログなんかを当時いろいろと読んで、
もちろん全部見たわけじゃないから見落としもたくさんあっただろうけど、
「建前で対応出来ない店主がバカ」って意見がなかったことに驚いたのね。
みんな、そんなに本音だけで生きてんの?って。
ショップの店員が「すごく似合ってらっしゃいますよ~」と洋服を薦める。
飲食店を退店する際、バイトが「またのお越しをお待ちしております!」と大声で頭を下げる。
それ、全員に本音で言ってると思ってんの? んなわきゃねーだろ!

エレベーターのないビルの何階、なんて立地の店はたくさんある。
入り口が狭いとか、段差が激しいとか、慢性的な人手不足とか、事情なんて店の数だけある。
そこに車椅子の客(電動車椅子は100kg以上ある)が事前連絡なしで来店した場合、
障害者だから、有名人だから、店は無理しても対処しなきゃいけないの?と批判側。
一方擁護側は、一般の客同様に扱わないのは差別じゃないの?と。
確かに両論ともごもっともではある。

いや、これね、入店拒否した差別した云々なんて大きな話じゃなくて、
その場で建前を言えなかった店主に火種があるんじゃないの?

夕食時の忙しい最中、予約客が来たと思ったら電動車椅子だったと。
正直「チッ」と舌打ちしたい気持ちが芽生えたからって誰が責められよう。
そこで面倒ながらも階下に下りて行って、泣きそうな顔を作って丁重に頭を下げ、
「店長の高田です。誠に申し訳ございません、車椅子のお客様だとは露知らず…。
当店はエレベーターの止まらないこうした不便な立地ですので、
勝手ながら車椅子の方には事前にご連絡をいただくようにしておりまして…。
事前にご連絡をいただければ、力持ちの友人がおりますので、
彼に声をかけてでも対処させていただいたんですが…」
「ちょっと下まで降りてきて、抱えていただくことは…」
「それが昨夜、大変お恥ずかしい話ですが、風呂に入った際に腰を痛めてしまいまして…。
今朝起きたら少しましになっていたものの、まだ本調子ではございませんで。
そんな私が乙武様を抱えようものなら、乙武様を危険な目に遭わせかねませんし、
大事な車椅子をこちらに放置されて、何かあっても責任は負いかねます。
そちらに関しても、事前にご連絡さえいただければ、
エレベーターのある近所の知り合いの飲食店に話をして、
お食事中はそちらに駐車していただくことも出来ますので…」
ここで「ですので本日はお引き取りをお願いいたします」とは言わない。
あえて「駐車していただくことも出来ますので…」で言葉を止めておき、
申し訳なさそうな顔を演じ続けて間を開けることで、
相手から能動的に「…そうですか、しょうがないですね」の言葉を引き出す。
「…私の力が至らないばかりにご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでしたっ!」
頭を下げて相手が見えなくなるまで見送った後、階段を上りつつ、小さな声で呟く。
「ったく、あの五体不満足野郎…。ただでさえ忙しいのに手間かけさせやがって…」
店内に戻ると、料理の遅さを愚痴る客。
「店長、どこ行ってたの。遅いよ」
「いや、申し訳ありません。階下で鬱陶しいクレーマーが騒いでたものですから」

接客業を営むなら、いや、接客業以前に大人として、
これぐらいの建前は言えなきゃ全然ダメでしょ。大人失格でしょ。
ま、建前を超えた若干の嘘も混じってるけど(笑)、
建前の範疇として、社会の潤滑油として、この程度の嘘を咄嗟につくスキルも必要でしょ、大人なら。
なのに当の店長ったら、本音を客に直接吐露してどうすんだ、っつー話。
そりゃ接客業の資格がないって糾弾もされて当然だわな。


■ 今日の一曲
名古屋のシンセポップバンドによる新解釈の現代版シティポップ、との触れ込みだけど、
シティポップ好きじゃなくともハマる、やたらと気持ちの良いキャッチーサウンド。やられた。

Orland - Fragment of Romance

2014年5月13日

豚を攻撃する際に四つん這いになるやつはバカだと思って間違いない。

一年ほど前から在特会周辺の話題に関心を持ってまして。
在特会ならびに在日差別、ヘイトスピーチに関する基礎知識はこちら。

新大久保や鶴橋で何が起きているのかについて、知らない人に向けて。 - <life>fool</life>

こうした差別的言動を繰り返す団体や個人、その思想・行動に賛同する者は
ネットを通じてその主張を広める手法から「ネット右翼」、通称「ネトウヨ」と呼ばれ、
(実際には右翼からも保守からも嫌われてるただの排外主義者なんだけど)
攻撃的な街宣デモを繰り返して、これまでに何度も問題を起こしてるのね。
興味を持たれた方は安田浩一氏の「ネットと愛国 ~在特会の「闇」を追いかけて~」も読まれたし。

で、上記のリンク先を読むとおわかりの通り、
在特会とは何かっつーと、いたってシンプルに「キチガイ」の一言に尽きるわけですよ。

2002年の日韓共催W杯あたりから世間では徐々に嫌韓の空気が醸成されて、
(2chでは飯島愛を女神扱いしたりしてたっけ。もう12年前になるのか…)
2005年には嫌韓を煽った「マンガ嫌韓流」がベストセラーに。
今では嫌韓本・呆韓本の類が書店で平積みされるほど、嫌韓はすっかり市民権を得てる。
平積みに否定的な人もいるけど、個人的には健全な需給の結果であり表現の自由だと思う)
そうした土壌に加え、昨今の国際情勢を鑑みると「アンチ韓国政府・アンチ韓国社会」は大いに理解出来る。
在日韓国人・朝鮮人(以下、在日と略)の中には嫌なやつもいるだろうし、そいつ個人を嫌いになるのもわかる。
(むしろ嫌なやつなのに「在日だから」嫌いにならないなら、それは充分に差別だわな)
ただ、それがどうして「○○は全部嫌い」になっちゃうのかがわからないんであってさ。
どうしてアンチ韓国人やアンチ韓流ドラマ、アンチK-POPになるのか、
ましてや、それがどうしてアンチ在日になるのか、飛躍が過ぎてもう理解不能ですよ。
マンションの大家が五月蠅いからって「このマンションの住民は全員嫌い!」となるか?
ラジオから嫌いな曲が流れてきたら「もう音楽なんて聴かない!CD全部捨てる!」となるか?
しかも個人がそう思うのは自由だけど(バカだとは思うけど)、
それを大声で喧伝して回り、同調を求めるなんて正気の沙汰じゃないわなと。

個人的な意見を書いておくと、オレは在特会の言う「在日特権」なんてないと思ってんのね。
通名制度も特別永住許可も「悪用しようと思えば可能」なだけであって、
ごく一部が悪用したからってそれを「特権だ!」と叫ばれてもなあ、と。
「一部の人が生まれながらにして持つ、悪用可能な権利」を特権と糾弾するのであれば、
皇室、障害者、天性のアスリート、手先の器用な人、なんかも非難しないと嘘になっちゃう。
オレにとっては「女」、ましてや「美人」なんてのは最大の特権だと思うけどなあ…。
それはともかく、百歩譲って在日特権の存在を認めるとしても、
だったら特権を与えてる政府サイドを非難して改正案を提案すべきはずで、
特権濫用を抑止するための法整備を行った方がよっぽど効果的でしょうよ。
それなのに、言われたところでどうすることも出来ない在日に対して
ヘイトスピーチを行う時点で、本質的にはストレス発散でしかないんだよね。
そもそも問題意識もないんだろうし、解決するつもりもないのは明白なわけで。

つまりゲーム気分で差別を行う「絶対悪」なんだよな、在特会というのは。
そこに擁護出来る要素は微塵もない。
逆に言うと、叩くだけで「絶対的正義」になれる存在であって。
ここ、ちょっと覚えといて。後で出てくるから。

で、差別的デモ=犯罪かというと一概には言えなくて、
一応はデモの許可を取っている以上、法は遵守してることになってる。現行法上では。
オレなんかは差別的デモ、ヘイトスピーチを法規制すれば済む簡単な話だと思うんだけど、
それだと「どこからが差別でどこからがヘイトスピーチか」を誰が定義するのかという問題や、
言論統制に繋がるというリベラルな人たちによる危惧があって、
現状では野放しにせざるを得ないっつー、非常に情けないことになってて。
時の政府が悪用出来ないよう明文化して、さっさと法改正しちゃえばいいじゃんねー、固いこと言ってないで。

以上、ここまでは「差別はいけないよね、差別する人は悪いよね」という当たり前の話。

ここからの展開がオレ的には俄然面白くなってくるんだけど、
上記の通り、法的には現状放置せざるを得ない差別的集団に対して
差別反対を標榜して果敢にも立ち上がった人たちがいたのな。
それが一番最初のリンク先にも書かれてる「レイシストをしばき隊」や「プラカ隊」でさ。
彼らは差別許すまじとカウンター(反対勢力)として在特会と対峙したわけ。

ここでさっき「ちょっと覚えといて」と書いた部分を振り返ると、
彼らカウンター勢は生まれながらにして「絶対的正義」なのね。
そりゃそうだ、絶対悪の差別的集団に立ち向かっていくんだから正義に決まってる。
差別を憎む我々が賛同すべきはカウンター勢でしかありえないし、
差別vs反差別、絶対悪vs絶対正義、常識人なら誰もが後者を支持するのは明らかで。

ただ、この対立はそんな単純な図式から「逸脱」していくんだよね…。

先に書いておくと、オレはプラカ隊は支持する。いや、支持してた(理由は後述)。
プラカードに差別反対の旨のメッセージをしたためて、
ただ黙って街頭に立ち、静かに意思を表明するプラカ隊は
本当の意味でのカウンターたり得てると思うし、
日本人は決して差別を許していない、という対外向けの意思表示にもなってる。
もちろんそれで簡単に差別がなくなるわけではないけれど、
オレは差別的デモを根本的に絶つには法整備しかないと思ってるから、
それまでの場繋ぎとして、プラカ隊は充分に機能していると思うんだけども。

さて、もう一方のカウンター勢力、しばき隊の「逸脱」は圧倒的なネーミングセンスの欠如に始まる。
暴力を示唆するかのような「レイシストをしばき隊」って…。
実際にしばく(殴る)わけじゃなく、しばきたいと思ってるから「しばき隊」らしいけど、
第三者の目にはそうは映らんわなあ。「しばき軍団」みたいな意味合いに取られる。
「レイシストを許さない会」「レイシストに断固反対し隊」とかでいいじゃんなあ。
どうしてわざわざこんな誤解を招く、正義らしくない名前にしたのか不思議。

しかも彼らは「目には目を」「毒を以て毒を制す」の論理で、
名は体を表すが如く、実際に暴力的なやり方で戦いを挑んでいくんだな。
侮蔑的な言葉で在日に罵声を浴びせる在特会に対し、
しばき隊も侮蔑的な言葉で在特会に罵声を浴びせる。
時には在特会と揉み合いになり、暴行容疑で数名の逮捕者も出してる。
「しばき隊」やメンバー名で画像検索すると、
出てくるのは和彫りの刺青をキメた強面の輩だったり、
記念写真かのようにカメラ目線で中指を立てる中二病のような連中だったり…。

さらにはメンバーに暴行・脅迫の犯罪歴があったり、前科二犯の政治犯がいたり、
ついには先日、生活保護費不正受給で逮捕される者もいたりで、
目的としてはせっかく明確な正義を掲げてるのに、そこに頻繁に非正義が顔を出す。

もうね、全然ダメなの。信用の出来なさ、説得力のなさ、求心力のなさがハンパないの。
本人たちは正義の旗印の下で英雄気取りなのかもしれないけど、
こんなの見たら一般人は「やだ、こわーい、気持ちわるーい」と感じるよ。
仮面ライダーに犯罪歴があって、全裸に靴下だけみたいなルックスだったら、
いくら正義を守ったとしてもヒーローとして認めてもらえないでしょ。仲間になりたくないでしょ。

つまりはね、そもそもプラカ隊とは異なった目的で組織された集団で、
差別反対という主張を悠長に述べるよりも、その場で直ちにレイシズムを食い止めたい、って主旨があって。
その崇高な主旨自体を揶揄するつもりはないけど、
第三者の目線という客観性が見事に欠落してんのね。
目の前に差別を行う敵がいて、差別を受けてる被害者がいて、差別に対峙する自分たちがいると。
その外側で「今後運動に参加したり支援したりしてくれるかもしれない第三者がその様子を見ている」ことが全然見えてない。

市民活動なんて民意を味方につけて、大衆を引き込んでナンボなんだから、
運営にあたってマイナスイメージや敵対勢力からのツッコミどころの排除は絶対に必須なんだよな。
今回の件でも、一部のメンバーの暴力性やバックボーンが原因で、
しばき隊全体のイメージ低下に繋がり、大衆を運動に引っ張り出せなかったわけで。

何度も言うけど、当初は「絶対的正義」という圧倒的優位を誇っていたんだからさ、
普遍的でベタな「差別ハンターイ!」といった形の抗議活動を続けてれば、
絶対に民意がついてきて、数万人、数十万人単位のカウンターとなり得たんだよ。
そうなれば数の力で、とりあえず目の前の差別的デモは止められたはずで。

また、こういった抗議行動で「毒を以て毒を制す」って手法が孕む問題点は、
敵対勢力や第三者から「おまえらも同じ穴の狢じゃねぇか」とツッコまれることでさ。
上に書いたように、ヘイトスピーチに反対するしばき隊も、在特会へのヘイトスピーチを行ってるわけだから。
で、案の定ネトウヨからその件を批判されると、
「我々が在特会に行っているのはヘイトスピーチではない。ヘイトスピーチというのは…」と、
ヘイトスピーチを勝手に定義して、自らを正当化し始めたのな。あちゃー。

…いやいや、「自分たちの作ったルールで自分たちの言動を正当化する」って一番のタブーでしょ!
正当かどうかは世間がジャッジすることで、決して本人たちが決めるこっちゃない。
それなら在特会の差別的行動すら「在特会ルールでは在日への正当な抗議活動」ってことになるし、
「イスラム原理主義においては…」ってテロリストの言い分をも認めることになっちゃう。

というかね、オレはてっきり手法がマズいのは承知の上で、
それでも差別抑止という目的遂行のために批判覚悟で「あえて」ダーティーヒーローを演じてるのかと思ってたよ。
なのに弁解してどうすんだと。なんだかすげーかっこ悪いんですけど。
つーか、そんな弁解してまで、どうして「ヘイトスピーチと誤解される罵倒」が必要なのかがわからない。
オレには感情の赴くままに放った言葉の暴力を後から自己弁護してるようにしか見えないんだよな。

一応はしばき隊の暴力性に対する弁明もあるものの、オレには言い訳にしか見えない。
確かに「法整備なし」というルール上なら最適解かもしれないけど、
どうしてそこまで法整備を避けるのかがまず理解出来ないし、
結果的に国家が差別を容認して、その度に強面の自警団が暴力的に対処する、
しかもその自警団が本当は正義なのか悪なのかはわからない、
そんな北斗の拳にも似たカオスな世界、オレは絶対に嫌だがなあ。

こうして大衆の支持を失った活動は「正しいことをしているのに認められない」が故、
過激な言動が目立つようになり先鋭化して、ますます民意から世間から遠ざかっていくわけだ。
Twitterでは「反差別運動をするなら殺人魔だろうが強盗魔だろうが関係ねえ」とか発言したりさ。
少なくともオレはいくら正しい行動でも殺人魔や強盗魔と一緒にしたくはないよ…。
この時点で「正義vs悪」の図式は消滅して「悪vs悪」になってんだよな。

そもそもオレが被差別側の在日だったらどう思うだろうか。
当初は味方の出現に心強く感じただろうけど、
それが反社会的イメージを纏った者だったら…。
差別加害者と同様に下品な罵詈雑言を吐く輩だったら…。
正直、ありがた迷惑じゃなかろうか、と思う。
差別は嫌だけど、この人たちと同類に見られるのもな、って。

実際にあるべき解決法がしばき隊のそれだとはオレにはどうしても思えないんだよなあ。
いじめられっ子を普段素行の悪いヤンキーが救う、みたいな一見美談チックな漫画的構図だけど、
それだといじめられっ子はまたいじめられるし、その度にヤンキーが救わなくちゃならない。
根本的に必要なのはいじめっ子に対する罰則を規定した、いじめを絶対に許さない校則じゃないの?

先述したネーミングセンス云々の続きだけど、
しばき隊はイメージ払拭のためか、昨年末に団体名を変更してんだよね。
「レイシズムに対抗」するため「しばき隊・プラカ隊等が渾然一体となったプラットフォーム」として(Wikipediaより)
新しい団体名は「C.R.A.C.」(Counter-Racist Action Collective)というんだけど、これがまた全然ダメ。
「クラック」って破壊的な意味を持っちゃってるでしょ。Crackingだったりコカインの隠語だったり。
だったら「反差別連合」とか「A.A.R.(Association Against Racism)」とか、何でもいいんだよ。
ただ、C.R.A.C.は違うんだよなー。中指立てた写真と相まって、軽薄で底の浅いパンク臭が漂うんだよね。
ちなみにC.R.A.C.になった時点でオレはプラカ隊を見切った。あー、しばき隊を認めるんだ、って。
また、現在しばき隊の関連団体として反レイシスト団体がいくつか発起してるんだけど、
その名前が「男組」、「友だち守る団」、「我道会」…。酷い…。

そのC.R.A.C.が今春ついに暴走を始めた模様。
「在特会による差別的デモの制止」が発会理由だったはずなのに、
気付けば安部首相に対するヘイトスピーチを始める始末。あわわわ…。
差別的プラカードに飛び交う罵声、お決まりの中指を立てたファッキンポーズ。
しかもその画像を得意げにC.R.A.C.のHPに掲載したりもして。ああ…。

もう当初の行動理念も失ってるし、在特会とどっちがレイシストだかわからない。
正義の行動で得た支持者の「力」を政治的活動に利用するって最悪じゃね?
もちろん安部首相や政権与党を批判すること自体は個人の思想信条の自由なんだよ。
だったら個人か別団体でやればいいし、そこにC.R.A.C.の名前を使うのは違うだろと。
逆にC.R.A.C.を名乗って、汚い言葉、下品なポーズで反政府的主張をすることに何のメリットがあるのかをオレは尋ねたい。
むしろ安部首相は在特会を非難し、移民政策をも考慮するほど人種差別・民族差別には反対の立場なんだよね。
そこを批判するってことは、差別云々とは何の関係もない単なる主催者の政治的主義主張で、C.R.A.C.が出る幕じゃない。
結局は、敵がたまたま在特会だったから正義に見えたけど、
実は単に「自分たちが気に食わないものに反対する団体」だったのか、なんて邪推すらしちゃう。
元々しばき隊の母体は首都圏反原発連合なんだけど、
シングルイシュー(争点をひとつに絞ること)を失った市民活動は瓦解するって反原発運動の際に学ばなかったのかね。

在特会に唯一感謝すべき点は「わかりやすい悪である」ことなのね。
だからみんなが敵という認識を共有出来るし、みんなが存在を嫌悪する。
オレが懸念するのは正義を巧妙に利用した、こういうC.R.A.C.のような連中でさ。
一旦「正義」というレッテルを貼られたことで周囲を油断させ、
そのレッテルを利用して別のベクトルに向かう危険性を孕んでることで。
オウムに入信してテロ行為に手を染めた狂信者も元々はヨガ同好会の会員に過ぎなかったわけだ。
入信に至る過程は洗脳だけじゃなく、「この同好会の延長線上なら」って信頼感も当然あったろう。
「当初の目的」から離れて「当初の目的の支持者」を思想誘導することが許されるはずがない。
ま、これまで書いてきたようにC.R.A.C.はそもそも「正義」のレッテルの獲得に失敗してるんだけど…。

他にも、このC.R.A.C.が活動費捻出のためにパンク色の濃いグッズを販売してたり、
メンバーに有名人が混じってたり(松沢呉一は著書「鬼と蠅叩き」が好きだっただけに残念)、
主催者が音楽畑出身の人だから運動にすごくサブカル臭を感じたり、
書きたいことはいろいろとあるんだけど、また機会があれば。

で、オレなりの結論。
第三者が取るべきカウンター行動は徹底した無視、それしかないとオレは思う。
無視をしつつ、反撃としてコリアンタウンに「笑顔」と「お金」を落とす。
在特会がいくらヘイトを声高に叫んでも、徹底的にスルーされて、
意図とは逆にコリアンタウンは人で賑わい、潤っていく。
それこそが在特会のもっとも嫌がる結果で、一番の平和的なカウンターじゃなかろうか、と思うわけだ。
差別的デモ・ヘイトスピーチを法で規制出来るようになるまでは。

と、いろいろ書いたけど決して在特会の肩を持ってるわけじゃない。あいつらはキチガイ。それは間違いない。
ただ、キチガイの敵がまともだとは限らないし、
罵声を浴びせてくるキチガイに対して、こっちも罵声で返すのは愚の骨頂だっつー話。
豚を攻撃する際に四つん這いになるやつはバカだと思って間違いない。

…あ、言い忘れましたがおひさしぶりです。