2014年5月15日

建前と本音。

以前にふと思ったことなんだけど、建前を言えない、本音でしか生きられない人って増えてんのかなあ。
…何気なく「以前に」と書いたけど、振り返ったらちょうど一年前だった。
半年ほど前じゃなかったっけ? 月日の流れる速さにガクブル。加齢って怖い。

そんなことを思ったきっかけは、炎上騒動の元となった乙武さんの連ツイ。
当時結構派手に燃え上がったので覚えてる方も多いんじゃなかろうか。

今日は、銀座で夕食のはずだった。「TRATTORIA GANZO」というイタリアンが評判よさそうだったので、楽しみに予約しておいた。
が、到着してみると、車いすだからと入店拒否された。「車いすなら、事前に言っておくのが常識だ」「ほかのお客様の迷惑になる」――こんな経験は初めてだ。
乙武 洋匡 (@h_ototake)  2013.05.18 19:27
https://twitter.com/h_ototake/status/335703141318270976

お店はビルの2階。エレベーターはあるが、2階には止まらない仕組みだという。「それはホームページにも書いてあるんだけどね」――ぶっきらぼうに言う店主。
「ちょっと下まで降りてきて、抱えていただくことは…」「忙しいから無理」「……」「これがうちのスタイルなんでね」以上、銀座での屈辱。
乙武 洋匡さん (@h_ototake) 2013.05.18 19:34
https://twitter.com/h_ototake/status/335704926523109378

※ 現在は両方とも削除済み

このツイートに批判が集中して見事炎上。

乙武さんを銀座のレストランが入店拒否した問題 ネット上の反応 - NAVER まとめ

そして乙武さんがブログで陳謝して一応は鎮火。

イタリアン入店拒否について | 乙武洋匡オフィシャルサイト

この件に関するツイートやはてブコメント、ブログなんかを当時いろいろと読んで、
もちろん全部見たわけじゃないから見落としもたくさんあっただろうけど、
「建前で対応出来ない店主がバカ」って意見がなかったことに驚いたのね。
みんな、そんなに本音だけで生きてんの?って。
ショップの店員が「すごく似合ってらっしゃいますよ~」と洋服を薦める。
飲食店を退店する際、バイトが「またのお越しをお待ちしております!」と大声で頭を下げる。
それ、全員に本音で言ってると思ってんの? んなわきゃねーだろ!

エレベーターのないビルの何階、なんて立地の店はたくさんある。
入り口が狭いとか、段差が激しいとか、慢性的な人手不足とか、事情なんて店の数だけある。
そこに車椅子の客(電動車椅子は100kg以上ある)が事前連絡なしで来店した場合、
障害者だから、有名人だから、店は無理しても対処しなきゃいけないの?と批判側。
一方擁護側は、一般の客同様に扱わないのは差別じゃないの?と。
確かに両論ともごもっともではある。

いや、これね、入店拒否した差別した云々なんて大きな話じゃなくて、
その場で建前を言えなかった店主に火種があるんじゃないの?

夕食時の忙しい最中、予約客が来たと思ったら電動車椅子だったと。
正直「チッ」と舌打ちしたい気持ちが芽生えたからって誰が責められよう。
そこで面倒ながらも階下に下りて行って、泣きそうな顔を作って丁重に頭を下げ、
「店長の高田です。誠に申し訳ございません、車椅子のお客様だとは露知らず…。
当店はエレベーターの止まらないこうした不便な立地ですので、
勝手ながら車椅子の方には事前にご連絡をいただくようにしておりまして…。
事前にご連絡をいただければ、力持ちの友人がおりますので、
彼に声をかけてでも対処させていただいたんですが…」
「ちょっと下まで降りてきて、抱えていただくことは…」
「それが昨夜、大変お恥ずかしい話ですが、風呂に入った際に腰を痛めてしまいまして…。
今朝起きたら少しましになっていたものの、まだ本調子ではございませんで。
そんな私が乙武様を抱えようものなら、乙武様を危険な目に遭わせかねませんし、
大事な車椅子をこちらに放置されて、何かあっても責任は負いかねます。
そちらに関しても、事前にご連絡さえいただければ、
エレベーターのある近所の知り合いの飲食店に話をして、
お食事中はそちらに駐車していただくことも出来ますので…」
ここで「ですので本日はお引き取りをお願いいたします」とは言わない。
あえて「駐車していただくことも出来ますので…」で言葉を止めておき、
申し訳なさそうな顔を演じ続けて間を開けることで、
相手から能動的に「…そうですか、しょうがないですね」の言葉を引き出す。
「…私の力が至らないばかりにご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでしたっ!」
頭を下げて相手が見えなくなるまで見送った後、階段を上りつつ、小さな声で呟く。
「ったく、あの五体不満足野郎…。ただでさえ忙しいのに手間かけさせやがって…」
店内に戻ると、料理の遅さを愚痴る客。
「店長、どこ行ってたの。遅いよ」
「いや、申し訳ありません。階下で鬱陶しいクレーマーが騒いでたものですから」

接客業を営むなら、いや、接客業以前に大人として、
これぐらいの建前は言えなきゃ全然ダメでしょ。大人失格でしょ。
ま、建前を超えた若干の嘘も混じってるけど(笑)、
建前の範疇として、社会の潤滑油として、この程度の嘘を咄嗟につくスキルも必要でしょ、大人なら。
なのに当の店長ったら、本音を客に直接吐露してどうすんだ、っつー話。
そりゃ接客業の資格がないって糾弾もされて当然だわな。


■ 今日の一曲
名古屋のシンセポップバンドによる新解釈の現代版シティポップ、との触れ込みだけど、
シティポップ好きじゃなくともハマる、やたらと気持ちの良いキャッチーサウンド。やられた。

Orland - Fragment of Romance