2012年10月6日

エアコン事件。 【後編】

気まずい作業が始まって一時間半ほどが経過。
必要なネジが足りないことが判明して(プロがそんなことでいいの?)、
おじいちゃんが急遽、近くのコーナンまで車で買い出しに行くことに。
その間、オレはリビングにいて、おじさんは寝室で黙々と作業をしてくれてたんだけど、
数十分が経ち、ふと気付くと、作業してるような雰囲気がない。
そーっと見に行くと、寝室におじさんの姿がなくて。
おかしいなと思い、玄関のドアを開けると、
・・・おじさんがマンションの廊下で昼寝中! おい、マジか !?
おじいちゃんもアレだけど、この人も充分にアレ!

壁にもたれ、プーさんスタイルで昼寝してるおじさんを見下ろしながら、
オレはどうしてこいつらに工事を依頼したのかと反省することしきり。
あのとき、キャンセルする勇気がオレの中にあれば・・・。

一時間ほどして、ようやくおじいちゃんも戻ってきて、
作業を再開するも、まだ足りない部品があるようで、それは取り寄せになると。
そんなわけで、朝から都合四時間ほど居座った挙句、
結局エアコンは取り付けられないまま、一旦帰ることに。もう無茶苦茶ですよ。
事前に「先払いで」と言われていたにもかかわらず、ドタバタで忘れられてた工賃の話を振ってみる。

オレ「ところで、あのー、工事代の件ですが」
爺「えーと、それじゃ取り寄せの部品代込みで二万五」
おじ「(話を遮って)いえ! 今日はもらえる段階じゃないので結構です」
爺「えっ」

もうね、二人の対立がハンパないの。
おじいちゃんの商魂と、おじさんの職人としてのプライド(昼寝しつつも)がぶつかりあって。
でも、お互い表立って揉めることはなく、水面下で牽制し合ってる感じなのよな。
で、今回はおじいちゃんが矛を収める形になって、1円も支払うことなくお開きに。

一週間後、足りなかった部品の取り寄せを済ませ、
作業の続きが始まったんだけど、今度は三人に増えててさ。
どうやらおじさんがスタンドプレイで、勝手に人員を一人増やしちゃったみたいなの。
またおじいちゃんは「二人で充分なのにぃ」なんてブツブツぼやいてんだけど、
どうも様子がおかしいのよ。先日に比べて動作が異常に遅い。
足を引きずるようにゆっくりと歩く様は、一週間で急激に老け込んだかのようで。
心配して声をかけると、おじいちゃんはまた例の自嘲気味の照れ笑い。
「いやー、今朝行った現場でぇ、ハシゴから足を滑らせて落っこちてしもうてぇ、
そこから右足が思うように動かんでねぇ。ふひひひ」
おい、大丈夫か !? 今すぐ病院に行った方がいいんじゃ !?
そして、その状態で「二人で充分」と言った根拠なき自信・・・もはや恐怖!

でも、おじさんが勝手にもう一人増員したのは、
別におじいちゃんが足を怪我(おそらく骨折)したからじゃなくて、
単に作業効率を考えて、もう一人熟練者を連れてきたわけよ。
この人はまだ若くて、三十代後半ってとこか。
部品は揃ってるし、ベテランが二人いるしで、もう先週とは作業ペースが全然違うの。
どんどん取り付け作業をこなしていく二人。
それに対して、まったく見守るだけの状態になっちゃったおじいちゃん。
老人ならではの厚かましさで、断りもなく勝手にソファーに座り出し、
やり場のない怪我への憤りも含めてか、今度は聞こえよがしに嫌味を言い出す始末。
「その部品をそんなところに置いてると危なっかしいがねぇ・・・」
「そんなにテープを巻くなんて初めて見るわぁ。不思議なことするのぉ・・・」
でも、もはや体制としては2対1じゃん。
ベテランたちももう遠慮することなく、これまた聞こえよがしに悪口を言い返すわけ。
「ま、何も知らんもんにかぎって、あれこれ吠えるわな」
「こんな常識もわからんようじゃ、業者の資格あらへんがな」
「それなりの仕事もせんと金を貰おうって人とはやっとれんわ・・・ねぇ、お兄さん」
オレ「 !!! ・・・ああ、ははは」
もうおっさん同士の醜いいがみ合いは止めてくれ!
そしてオレを巻き込まないでくれ!

作業も終盤を迎え、相変わらず嫌味を垂れ続けるおじいちゃんに向かって、
我慢の限度を超えたおじさんが言い放った一言。
「・・・おい、どけ! じいさん、邪魔や!」
! オレは見た! ついに立場が逆転した瞬間!
そして面食らったおじいちゃんはオレを見て、例の自嘲面で一言。
「ふひひひ」

辛い! 辛すぎて直視出来ない!
地獄か? ここは地獄なのか !?

やっぱり工事はちゃんとした所に頼むべきという厳しい教訓でありました・・・。